216.相続相談体制・取り組みの強化に向けてた検討/JAグループ長崎

(株)コミュニティ・アシスト・システム 畠 孝志

農家組合員の高齢化と世代交代が進む中、担い手の確保・育成は喫緊の課題であり、JAにおいてそれぞれの地域実態に応じた相続・事業承継支援に取り組むべく、相続相談体制の整備・強化を進めています。
JAグループ長崎では、2月20日、相続相談体制・取り組みの強化に向けた検討会議が開催され、県内の先進的な事例としてJA長崎せいひの取り組み、県域の今後の取り組みとして農林中金及び全共連、全農、中央会から説明があり、意見交換がなされました。本稿では、その概要について紹介します。

目次

1.長崎県におけるこれまでの取り組み

(1)本県におけるこれまでの取り組みと先進JA視察について

JAグループ長崎では、令和5年12月に中央会の理事会において、各JAの組合長に対し、JAの貯金額や出資金の年代別割合を提示し、相続相談に取り組む必要性と意義を伝え、共有しました。

その後、県内のJA・県域組織の担当者で、令和6年3月にはJA京都やましろとJA兵庫南へ、7月にはJA北つくばとJA相模原市への視察研修を実施しました。また、令和6年5月に、全国4連(全農、全共連、農林中金、全中)でJAグループ相続相談強化方針が策定されたことを受け、9月に再度中央会の理事会及びJAバンク運営委員会にて、相続相談の必要性について確認し、11月に県下のJA経営担当部課長会議にて周知しました。視察に関して、JA北つくばでは、支店窓口担当者が受付シートを記入してもらい、その後の個別対応は本店の担当者が地元専門家と連携して行う個別相談サポート体制をとっていました。

JA相模原市では、支店職員が知識・スキルを深め、コア層(大口資産農家)を中心とした提案活動を通じて、遺言信託に力を入れていました。
両JAとも、各部署間の連携を図りながら、農協の強みを生かした「組合員に寄り添う」相続相談を展開しており、これらを参考に、長崎でも相続相談に取り組んでいく必要があります。

(2)女性部での取り組みについて

長崎県中央会は、JA女性部員に対し、終活・相続について触れてもらうため、これまで地域女性部活動の一環として終活に関するセミナーを実施してきました。本年度から特に強化している取り組みとして、エンディングノート「いまから帳」の活用を進めており、JA事務局が同資材の活用方法に関する研修を開催できるようマニュアルを作成し、各JAを巡回・生活指導員研修会にて説明しています。

また、「いまから帳」記入促進に向け、スタンプラリー形式とした助成制度を設け、全項目記入できた場合には1人あたり千円、1JA上限10万円の助成を行います。
JA事務局がサポート役となりいまから帳を記入することで、女性部員の相続に対する興味関心を高め、女性部員の配偶者にも遺言書の重要性を理解してもらうことで、最終的には遺言書の作成へつなげることがねらいです。

2.県内事例:JA長崎せいひにおける相続サポートの取り組み

(1)相続サポート体制構築の必要性

JA長崎せいひでは、組合員の高齢化が顕著であり、相続に関する相談が年々増加傾向にあることを認識していました。相続の発生により、貯金の流出や各種事業の取扱量減少、組合員の脱退につながるケースが多く見られるようになりました。
また、地銀や葬儀場などが積極的に相続相談に取り組んでいる状況を踏まえ、当JAでも早期に事前相続サポート体制を構築し、次世代とのつながりを強化する必要がありました。

(2)サポート体制導入までの流れ

JA長崎せいひでは、相続サポート体制の導入に向けて、令和5年9月から検討会を発足し、当JAでの体制構築の是非、今後の進め方などを議論しました。その後、先進JA視察研修を経て相続サポート体制の意義を明確にし、半年ほどかけて内部の理解を求めました。

当初は、相続相談に対応できる職員がいない、増員が必要である、相談業務は手間がかかるといった声もありましたが、支店からの意見を徴収し、対応策を提示することで理解を求めました。

令和6年4月1日にサポート体制を始動する予定でしたが、人事異動の際に、専門体制の配置がなく、金融部に兼務担当者を2名配置する形となりました。その後、事業戦略室が全支店の支店長や金融共済課長に相続サポート体制の内容を説明し、8月1日に専門人員1.5名と終活カウンセラー1名で相談推進業務を開始しました。

(3)サポート担当の目的と役割

相続サポートの目的は、相続の発生による事業量減少を抑制・維持すること、組合員の脱退減少を抑えること、次世代への繋がりを強化すること、そしてJAファンを拡大することです。サポート担当者の役割は、高額貯金者などの重要取引先への相続に関連する情報提供、事前相談業務(財産台帳整備、生前贈与、遺言作成、相続税試算:資格ある各種専門家と連携)、専門家の紹介(税理士、行政書士、弁護士など)、セミナーや個人相談会の企画・運営、支店との連携です。

最初はみんな素人ですが、投げかけられた疑問について、調べ、専門家に相談し、勉強することで専門的な知識や対応方法が身につきます。相続相談は複雑で難しく、クレームを受けるリスクもあるだろうと当初は思っていましたが、話をきくだけでも感謝され、大変やりがいのある業務です。

(4)サポート体制

導入直後のサポート体制は、相続サポートプロジェクトメンバーとして、座長に常務、メンバーに全ての部長を据え、事務局を事業戦略室に置きました。相続相談所管部署を管理部門に置くか、事業部門に置くかで議論がありましたが、最終的には事業部門の1つである金融部門に置くことになりました。

現在は、役員、金融部長、ローンセンター長、事業戦略室が月に1回程度会議を行い、前月の実績や来月の予定などを共有しています。今後は、ローンセンターの中にライフプランサポートセンターを設け、相続、ローン、資産活用の相談に対応できる体制を目指しています。

図 JA長崎せいひ・現在のサポート体制

(5)相続相談のフロー

相続相談の流れとしては、まず相談内容の聞き取りを行います。相談者が抱える課題を明確にし、エンディングノートを渡し、必要な事項を説明します。家系図や金融資産の一覧、固定資産の台帳をいただき、税理士に相談しながら、課題を整理し、対応策を検討します。

生前贈与や相続税の負担などについても専門家のアドバイスを聞き、遺言の必要性やメリット・デメリットを説明します。相続税の計算は専門家にお願いし、JAの担当者が相談者と専門家の掛け橋となることで、一時払い終身共済などのJA商品の提案につなげることができます。

相談回数は5回程度を想定し、次世代の方には3回までには必ず会うようにしています。皆さんと前広に話すことで、争族にならないように努めています。

図 JA長崎せいひ・相続相談のフロー

(6)個別相談様式

個別相談では、シンプルなExcel様式を使用します。様式には、相談内容を記載し、イレギュラーなことが起きた場合は手書きで記入し、専門家に相談します。JAにある情報は事前に整理し、家系図と資産整理表があれば、ある程度の内容は聞き取ることができますので、それを専門家に引き継ぎます。

相談後は、すぐに個別相談報告書を記載し、関係者に回覧して、課題を共有しておくことが大切です。月別相談実績表をもとに、月に1回相続サポート会議を実施しています。

(7)相談担当者の心得

相談担当者の心得として、相談者の気持ちに寄り添い、一緒に考え、悩み、課題を導き出すことが最も重要です。相談者と専門家の架け橋となるために、双方とコミュニケーションを取り、相続が争族にならないよう、可能な限り当事者全員の参加を呼びかけ、前広に共有します。

また、JA商品の推進は意識せず、相談者の将来の相続手続きが円滑に進められることを最優先で考え、最後まで誠実に対応します。担当者が1人で対応するのではなく、チームで対応することでリスクを分散し、早急な対策が取れる体制を維持します。

(8)個別相談への誘導

個別相談への誘導方法として、ふれあい訪問活動でのチラシ配布、広報誌「ひなた」に終活カウンセラーのコラム掲載、女性部、老人会、青年部、実行組合単位での終活・相続セミナーの開催、JA祭や展示会、斎場イベント時のセミナー開催などがあります。

セミナー時に行うアンケート回答者のうち、希望者には後日連絡し、戸別訪問、支店からのサービス紹介なども行っています。

図 個別相談への誘導フロー

(9)相続相談を始めて

相続相談を始めて、相談者は1人で悩んでいることが多いことに気づきました。話を聞くだけでも感謝され、相談を進めていくと必ず次世代の方と会うことができます。相談を通して家族とともに課題を共有し、解決していくことで信頼関係が生まれます。

相続相談とは「きっかけ作り」であり、「業務合理化」であり、「メンバーシップ強化」です。相続相談は、利用者とJAとの接点継続の「最後のチャンス」であると認識しています。

3.長崎県における今後の取り組みについて

(1)農林中央金庫長崎支店

JAバンクでは、相続相談機能強化に向けた取り組みを進めています。組合員・利用者からの評価を可視化する2023年度JAバンク満足度調査では、組合員や利用者からの期待に充分に応えられていない結果が出ており、特に生前贈与への対応や専門家との連携が課題となっています。このため、農林中金長崎支店では顧問税理士との連携を強化し、相続セミナーの開催を推進するとともに、JA職員向けの研修を提供することで、相続相談の機能強化を図る方針です。

また、JAバンク長崎中期戦略において3年後の目指す姿として、相続担当部署・担当者の明確化と推進手法の確立、相続セミナー等の入口相談、個別相談等のアフターフォローの実現を掲げています。これにより、組合員の資産を次世代へ円滑に引き継ぐ支援体制を構築し、JAバンク内での資産流出を防ぐことを目指します。さらに、相談対応能力の向上を目指した人材育成のために、県域職員及びJA職員向けの研修を提供していきます。

今後、JAバンクの各事業と連携しながら、相続相談の入口からアフターフォローまで一貫した対応を可能にする体制整備を目指していきたいと考えています。

図 JAバンク長崎中期戦略期間のロードマップ

(2)全共連長崎県本部

全共連では、令和7年度の事業推進活動方策として、相続相談体制の強化と、シニア世代を中心とした保障の推進に取り組みます。特に、60歳以上のシニア世代に対し、終身保障や医療・介護に関する必要性を伝える活動を強化します。また、相続は家族全体のリスクであるため、契約時や相続発生時には親族同席を推奨し、次世代層との関係性を深める方針です。

JA共済事業としては、引き続き共済の活用による相続対策の実施を図るとともに、相続人となる世帯内未利用者(ニューパートナー)や若年の既契約者等との接点創出・強化の機会と捉え、全事業を挙げた相談機会の創出や次世代層との関係性強化に取り組みます。

令和7年度は、相続相談のきっかけとして相続対策の啓発や、生前の相続相談において新規契約の締結時に親族同席を契機に次世代層との接点創出、死亡・相続に伴う事務手続き、そしてフォロー活動を実施していく予定です。

図 全共連・相続取組みの流れと令和7年度実施内容

(3)全農長崎県本部

全農では、農業の事業承継に関する取り組みを推進しています。特に、親子間での円滑な承継を支援するため、「事業承継ブック」を活用し、診断表やチェックリストを用いた話し合いを促進しています。

事業承継ブックは「親子版」のほか、「部会版」、「集落営農版」そして「ハッピーリタイアブック」があり、「親子版」で言うと、農業を継ぐ意思の確認や、具体的な承継計画の立案をサポートする内容となっています。
現時点では全農県本部が個別の相続相談に対応する体制は整っておらず、事業承継に関する基本的な情報提供が中心となります。

(4)長崎県中央会

JA長崎県中央会は、全国四連が決定した「JAグループ相続相談強化方針」を踏まえ、長崎県JAグループが一体となった相続相談支援の体制整備及び取り組みを推進します。

①長崎県JA大会決議(案)

令和7年3月に開催する「長崎県JA大会」における重点取組事項として、「次世代の担い手への着実な事業承継及び相続相談支援」の決議を予定しており、県下JA・中央会・連合会が連携のもと体制整備と人材育成に取り組むとしています。

②次期中期経営計画への記載

各JAの次期中期経営計画(令和7~9年度)に、相続相談支援の体制整備及び取り組みの強化について記載し、計画的な取り組みを促します。

③自己改革工程表への記載

中期経営計画と合わせて、役職員に対する周知及び意識醸成を図るため、「自己改革工程表(数値編)」へも積極的に記載します。

(5)県域組織共通

JAグループ長崎では、県内JAでの相続相談体制の整備・強化に向け、全農、全共連、農林中金、中央会が連携し、助成金交付要領を設定する予定としています。
助成対象経費は、研修・セミナー開催にかかる講師料、講師の交通費・宿泊費、研修資材費、また職員の外部研修・セミナー参加費としており、1JAあたり年額上限50万円(税込)の助成を行うことで、県内JAにおける入口相談の充実化を図ります。

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