No.1 テナントからの臭いの問題

JA 全国相続相談・資産支援チーム 顧問 弁護士  草薙 一郎

組合員はビルを1棟何店舗かに分けて貸しています。
その中のひとつの店舗にコーヒー店が入ることになりました。その店舗の隣には布製品などの商品を扱う店舗が入っています。

その店舗から、コーヒー店が入ることでコーヒーの臭いが布製品に付着してしまうおそれがある、臭いについての対応をするようコーヒー店に要請がなされたようです。
 ①コーヒー店は何らかの対応が必要でしょうか。
 ②もし、布製品に臭いがついたときは、コーヒー店に法的責任は生じますか。
 ③貸主である組合員の対応は必要でしょうか。

1.まず、大前提として考えるべきことは、店舗の中で営業をするとしても、周囲に迷惑をかけ
ることは許されないということです。これを法的に評価すると、営業をすることで他人の権利
を侵害するときは、不法行為の責任が生じるということです。

焼肉店などのケースでは、煙や臭いの問題があるため、ダクトの位置などを調整して近隣への配慮をしているのはそのためです。

もちろん、周囲の人や仕事の環境が将来にわたって変更されることの保障はどこにもないわけで、建築基準法など各種法律の規定に従っていれば、店舗での営業によって周囲の人などに何らかの影響があっても、そのことで直ちに不法行為の責任が生じるわけではないことは当然です。いわゆる受忍限度の議論です。

2.本件も同様に、コーヒー店の営業で近隣店舗の商品に臭いが付いてしまうというのであれば、不法行為の責任が生じることになるでしょう(コーヒーによって臭いが付いているのかの立証は近隣店舗の立証責任になりますが)。

もし、そうなら、コーヒー店としては対策をする必要があります。その対策として煙突の設置ということかも知れません。あるいは、別の方法があるのなら検討の必要があるでしょう。

3.ただ、質問のケースでは、テナントとして入居するケースですので、自分の建物でない以上、勝手に改修工事はできません。貸主と協議をする必要があり、貸主の協力を前提とします。

4.質問のケースでは、貸主は入居を認めています。そのため、もし貸主がコーヒー店との協議をしないなどのことをすると、コーヒー店は臭いへの対応ができないことになります。

また、貸主は近隣店舗の貸主でもあることから、その店舗との賃貸借上の貸主の義務(店舗営業が穏やかにできる環境を維持する義務)に反することになります。そのため、オーナーの責任も生じるかも知れません。

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