JAまちづくり資産管理情報 弁護士 草薙 一郎
はじめに
今回は、位置指定道路の所有者が、近隣の土地所有者の通行の禁止を求めることができるかについて説明したい。
位置指定道路とは、私道のひとつであり、建築基準法上の道路として、特定行政庁(地方公共団体のこと)から指定を受けた道路のことを言う。幅員は原則4メートルが必要とされる。この位置指定道路に指定されると、その道路に2メートル以上、接していれば建物の建築が可能となる。
一般的には、位置指定道路に面した土地の所有者が共有していることが多い。と言うのも、共有であれば誰かひとりで廃道などの行為ができないことによる。
今回説明するのは、位置指定道路(単独所有者)の所有者が、その道路に面している土地所有者の車両の通行を禁止することができるのかという問題である。
判 例
令和4年12月13日、東京高等裁判所はこのような案件について判断を示している。
事案は、位置指定道路に面した土地で運送業を営むA社に対して、A社の車両が当該道路を通行することの禁止を、当該道路の所有者Bが求めたものである。
B所有の当該道路は半世紀にわたり、位置指定道路として隣接土地所有者の通行に供していた。A社は、数年前に当該道路に面した土地を取得したが、A社の土地は公道への出入りも可能であり、A社は当該土地に車両を通行させることはなかった。
ところが、A社は2年前に職員用の駐車場を当該道路に面したところに設置したため、職員が当該道路を車両通行するようになった。
そこで、BはA社に対して、A社の職員が当該道路を通行することから精神的なダメージを受けたとして、A社に対して、当該道路の車両通行を禁止する旨の訴えを提起した。このBの訴えに対して、第一審はBの主張を認めたために、A社が控訴した。
控訴審である東京高裁は以下のような判断をしている。
「以上のような事情を総合すれば、控訴人による本件道路の自動車での通行は、被控訴人において、位置指定道路という当該不動産の所有者として受忍すべき程度にとどまるものであって、所有権に基づく妨害排除請求権の発生を基礎付けるような妨害行為であるとはいえないが、仮に形式的に見て控訴人の所有権に基づく妨害排除請求権の発生を肯定する余地があるとしても、被控訴人が、本件道路の管理に具体的な支障が生じているとはいえないのに、控訴人が本件道路の自動車での通行が禁止されることとなれば本件駐車場の使用不能という看過し難い不利益を被ることを知りつつ、控訴人からの本件道路の利用方法や管理方法についての協議申入れも一切拒否した上で、本件道路の通行者のうち控訴人のみに対して、本件道路の自動車での通行を全面的に禁止するよう求めることは、権利の濫用に該当し、許されないというべきである。」とした。
つまり、BはA社のみに対して、協議に応ずることなく、一方的に自動車での通行の禁止を求めていること、通行されることは当該道路の保全の観点からみても受忍の限度内であること、通行が禁止されることでA社に不利益が生じることなどを総合判断して、Bの請求は権利の濫用であるとしたのである。
そして、Bは上告したが、上告は認められてない。(判例時報2609号15ページ以下参照)
まず、理解するべきは、当該道路は私有地であることから、私有地の妨害行為については妨害排除の請求は基本的に可能であること、A社は当該道路に対して通行をする権利を有しているわけではなく、位置指定道路と指定されたことの反射的利益として通行が可能とされているにすぎないという点である。
参考判例
そうすると本件のような場合、仮にBがA社の通行ができないとするようなものを設置した場合、A社はBに対して通行の妨害の排除は可能なのであろうか。
このことについては、この判決の中でも触れられているが、最高裁判所平成9年12月18日判決がある。
位置指定道路の指定を受けた道路の周辺は住宅地であり、周辺住民が40年近く自動車の通行をしていたが、ある日、当該道路の所有者が簡易ゲートを設置し、当該道路に接する住民に対して、通行契約を締結せよ、そうでないと当該道路を改造するなどを求めたことに対して、当該道路の隣接所有者が簡易ゲートの撤去を求めた案件である。
最高裁判所は以下のように判断している。
「建築基準法42条1項5号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。」とした。
その理由としては、当該道路を通行する者には、通行についての法的権利があるのではなく、位置指定道路であることの反射的利益しかない。そのため、通行が妨害されても妨害排除の請求権は原則としてない。しかし、生活の本拠地と外部との交通は人間の基本的生活利益であるから、これが阻害されたときは、その代替手段がないなどであれば、日常生活上不可欠となっている通行の利益は、私法上も保護に値するからとしている。そして、この事案では妨害の排除はできるとしている。
両事例について
本件の判決は、最高裁の前記判決のあとのものであるが、本判決では、本件事案は平成9年の最高裁判決と事案を異にすると明記している。
本判決は、位置指定道路の所有者からの通行禁止を求めた事案であり、平成9年の最高裁は妨害行為をされた近隣の通行者から、その排除を求めた案件である。
もし、本案件の判断を平成9年の最高裁の基準によったとすると、A社は当該道路に面したところに従業員駐車場を設けなくても、もともと公道からの出入りができていたなどの事情を考えると、当該道路を通行することがA社に日常生活上不可欠と言えるかの問題があり、本件の第1審もこの考えのもとにBの訴えを認めていた。
ところが、本判決では事案がちがうとして、ちがった考え方での判断を示し最高裁もこれを否定していない。たしかに、求めている例もちがうし、事案もちがうのはわかるが、どうして平成9年の最高裁の判断基準とちがっていいのかは、現時点では筆者の頭の中で解決できていない。
とりあえず、妨害行為のあとで通行をする側から妨害の排除を求められたときは平成9年の最高裁判決、通行を禁止したいときは本判決ということで記憶されたい。
なお、二項道路の所有者から通行禁止を求めた事例でも本判決と同じような考えを示している(東京地裁平成19年2月22日判決)。